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運ばれてくる前菜を黙って食べる家族。
初対面の間柄も存在もある中、慣れない空間、慣れない服、慣れないテーブルマナーに、必然的に口数は少なくなった。
そんななか父は優雅に、フォークの背にサーモンを乗せて口に運ぶ。スープも手前から向こうへスプーンをくぐらせて美しい所作でたしなむさまは、くたびれた服ながら風格を感じさせた。
そんな父の落ち着きに次第に影響されて、コース料理の中盤にさしかかった頃にやっと会話が生まれ始めた。
「おいしいですね」
宗次郎さんが告げる。
「そうね」
母が言う。
そして意を決したかのように母は父に向き直り、居ずまいを正して言った。
「美貴を、立派に育ててくれてありがとうございました」
「何を言う」
父がナイフとフォークを八の字に置いて母に面した。
「美貴をずっと見守ってきてくれて、ありがとう」
「そんな、私は美貴にひどいことをしたのに」
父の優しさを恐れるように縮こまる母に、父は語り始めた。
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