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父は続けた。
「父さんはそのことがずっと心残りだった。尊敬していた父親の死に目にあえなかったのだから、ずっと塞ぎこんで、美菜にも辛く当たったりした。だから、決めたんだ。自分はどんなことがあろうとも、大切な人と向かい合うことから逃げないでいようって」
母のすすり泣く声が聞こえる。父が母さんのことを名前で読んだのは久しぶりだった。
「美菜にプロポーズされて、入籍するときに、美菜にあげたパールのネックレスには、願いと決意を込めたんだ。真珠の石言葉は知ってるかい?」
慌てて私はスマホを手に検索した。
「健康、富、長寿、清潔、素直とありますね」
宗次郎さんが手元を見ながら答える。
「そう。家族全員が健康であること、全員が長生きすること、互いが互いに素直であること。美菜の誕生石というのも理由の一つだけど、宗次郎君が言った真珠の石言葉のうちの三つを、特に我が家では大事にしたい。入籍した日の晩御飯の前に、ネックレスを渡すとともに込めた想いも話した」
「なのに私は美貴を思い遣らなかった」
母が沈痛な面持ちで顔を伏せる。
「でもしっかり美貴を見守ってくれたね。美菜なりに調べて、レズビアンが集うお店の情報を美貴に与えたのは美菜、お前だろう?」
「え?」
私は驚いた。
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