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私が女として生きていくきっかけとなった『レズ専門バー 椿』に私を導いたのは、名も知らぬマスクの女性……。(最初の章に新しく追加したエピソードです)そこで私は先代の社長に出会い……!
「あれは、母さんだったの?」
男装して男として、女性しか愛せない女性の相手をするのは楽しかった。あの頃が私が真に私でいられた最後の期間だろう。その私の人生で最も重要といえるイベントに、母が関わっていたなんて。
「ええ、そうよ、美貴」
「そのバーに、MISUKA社の社長を誘導したのも美菜だろう?」
「ええ。社長の住まいを調べて、これこれというバーに絶世の美女がいると手紙を送ったの。まさか本当に社長が来るとは思わなかったけれど。思えばあの時代はいい加減だったんだね。今なら不審な手紙は社長の手に届く前に処分されるだろうし、社長がレズビアンの店に足を運ぶことなんてないだろうし」
「それで、なんでMISUKA社の社長にしたの?」
私は母の話を遮って尋ねた。
「それはね……愛妾をたくさん持っている方だとは聞いていたけど、心優しく会社は家族のような連帯感がある、そんな方なら美貴をなんとかしてくださらないかと思ったの。数ある愛妾の一人なら、意に沿わない経験をさせられるのも少なくてすむかな、って」
「私は先代に、強要されたことはないよ。してもいないし。母さんの読み通り、帰る場所のない私に先代は親身になって衣食住を保証してくれた。幸せだったよ。ただ、そこから自分を女に矯正する試みが始まっちゃったんだけど」
「美貴は知らないだろうけどね、あの『椿』っていう店は経営が危なかったらしいの。そろそろ店を畳もうかってオーナーが話しているのを聞いて、店がなくなったら美貴がまた腕を切ったりタバコの火を押し付けたりする日々に戻ってしまいそうで、いたたまれなかったの」
それは初耳だった。知らぬ間に母は私を危機から守ってくれていたのだ。
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