憎しみの果てに

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 今日の晩御飯はなににしようか、とスーパーのチラシを見比べながら考える。  安さを求めて見ていたチラシをひとまず置いて、ふと窓から差し込む光に目を細める。  今日くらい、奮発してもいいだろう。なんてったって、結婚式をあげてから一年の記念日なのだから。  父が前いた会社で働けるようになったとはいえ、まだ仕事の勘を取り戻すには時間がかかりそうだし、宗次郎さんはまだ下っ端の社員である。収入が安定しているとは言いがたく、何事も切り詰める日々。光熱費を節約するために、宗次郎さんがいない昼は窓からの光だけで生活している。  一年一緒に暮らすうちに、宗次郎さんの食べ物の好みもわかってきた。 「ふふ」  思わず微笑みが漏れる。宗次郎さんは子どもの好むような洋食が好きらしいのだ。 「今日はオムライスにしよっ」  最近値上がりしている卵を、ちょっと贅沢に使ったふわふわオムライスが理想。ケチャップの味が好きな宗次郎さんのためにしっかりケチャップを使いたいから、残り少ないケチャップも買い足そう。  ……愛している人のことを考えるのが、こんなに幸せなことなんて。  私はそっと首元に手を遣る。  母が父からもらった淡水パールのネックレスは、今は私のものになった。  身内だけの質素な結婚式だったが、母から父へ、父から宗次郎さんへと手渡されたネックレスが私に掛けられる演出は、どんなゴージャスなドレスにも、どんな高いケーキのタワーにも、何カラットもするダイヤにも遠く及ばない素敵なものだった。  健康、長寿、素直。父が託した言葉を胸に、私は元気に主婦をやっている。  そして私は少しだけ膨らみをもった自分の腹に手を遣る。  ……もうすぐ、家族が増えるのだ。  きっと、幸せな家庭を築いてみせる。この淡水パールにかけて。 (完結)
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