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名脇役と呼ばれた昭和の俳優の言葉を聞いたことがある。
「あまりにも多くの役に成りきってきたため、どれが本当の自分かわからなくなった」
世間はそれを、役に入り込む役者の心意気だと無責任に報じては語るけど、私にはその俳優の苦しみが痛いほどわかる。
演じることをやめたとき、なにも残らないのではないかという恐怖に、始終付きまとわれるのだ。そうして始終演じ続けているうちに、演じない瞬間が怖くなる。素の自分のはずなのに、あまりにも大きな、無視できない違和感に支配されるのだ。
(これは私ではない……)
これこそが、私であるというのに、滑稽なことだ。
そんな日々を送るうち、私は素の自分に戻れなくなった。
そして終いに偽物の私しかわからなくなった……。
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