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私は今、男になりたいと願ったあの頃の自分の気持ちを思い出せないのだ。
奇妙なことだと思われるかもしれない。現に私は女を『演じて』いる。その自覚はあるのである。ということは今の私はフェイクであることは確かなはずなのに。わかってはいるのだが、いかんせんフェイクでない本当の自分を探そうとしともそれが自分の中に見つからないのだ。
今でも性に違和感はある。だけど、あまりに自分を殺して生きてきたから、『だからどうしたいのか』がわからなくなってしまった。
今から海外に行けば性転換も可能である。だが、気は進まない。男装家、レズビアン、お転婆、オナベ、どの呼び名もしっくりこない。性の趣向を売り物にするなどもってのほかであるし、身体を傷つけてまで本懐を遂げたいとも思えないのが本音なのだ。
私は一体何者なのか。男性でもない女性でもない、フェイクの性が自分自身になってしまったかのようだ。これはなんとしたことだろう。
まるで自分の船で進む航路に、舵を投げ捨ててしまったようなもの。このまま流されていくしかない。
そう、私は半ば諦めてた。……枯れて太陽を追うことを忘れたひまわりのように。
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