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私の名前は柿本さや。当然、女である。だが、私の中の私は女であってくれない。
一言で言うなら、お転婆だった幼少期。だけど悪ガキとはしゃぎ悪戯をすることは私にとっては日常で。胸も出ず生理も来ていない段階だったから、周りの女子もとやかく言わなかった。
私が「異常」だと気づいたのは、小学校五年生の頃。
身体を洗うときに、ふと引っ掛かる胸の膨らみ。
「……なにこれ……」
違和感と、気味悪さしか感じられなかった。
今まで当たり前のように裸の付き合いをしていた父が、言いにくそうに言った一言。
「お前も、もう女になったか。もう一緒にお風呂に入るのもお仕舞いだな」
とっくに周りの女子たちは、父親と風呂に入るのなんて止めていた。私がそうしていることを聞くと、あからさまに嫌な顔をした。
だけど、私にはわからなかった。
「どうして?ぼくパパとずっと一緒にお風呂入りたい!」
「母さんと、話し合ったんだが、そろそろ自分のことを『ぼく』って呼ぶこともやめなきゃね。はは、そんな哀しそうな顔をするなよ。お前という女の子が父さんっ子になってくれて嬉しかったよ」
ザバア、と音をたてて父が湯船から出ていった。
「どうして?そろそろってなに?」
己の知らぬ何かに、理不尽に父との縁を切り裂かれたとしか思えなかった。
まだ若かったから、浴室を出る父の背が寂しさを湛えてくれていたことも、その上で私の幸せを願ってくれていたことにも気づかず、ただただイライラしては無性に悲しくなり、浴室の壁を叩いては歯ぎしりをした。自分でも驚くほど、涙が目から溢れた。
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