偽りの性

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 性同一性障害。  私はそれだった。  そう知るや、父と母は急に仲が悪くなった。  こんな子に産んだ覚えはない、と母が言った。  それはないだろう?と父が言った。  ならこの子を育てられる自信はあるの?と母が言った。  あるとも。と父が言った。  なら育ててみなよ、と、母が言った。  深夜光が漏れる部屋で、私抜きに私の根本が傷つけられていた。  それからもずっと、家族のなかで私は『異形の子』。小学校で習ったコソアド言葉で指差される日々。  私は途端に名前を失った。  それまでも、悪戯をしたときなどに『この悪い子!』と叱られたことはあった。  ぼく、なんか悪いことしたの?  己であることが罪だと言われているようで、胸の中ががらんどうになった。  美貴、といとおしそうに呼んでくれたママはどこなの?  人が変わったような母と、肩を落とす父。これらも自分が罪深いからなのか?  私は段々、破滅的な思いを抱くようになった。
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