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(…………すごい)
迎えの車に乗り、ずいぶん長い距離を走ったと思う。
高速を降り、田園風景の中を走って鬱蒼とした森の中へと進んでいく。目の前にはまるで到着を分かっていたかのようにゆっくりと開く大きな門。そこで視界が拓け、目の前には広大な敷地が広がっていた。
「……ここ?」
何分かして見えてきた建物に息を飲んだ。大きな庭園にコの字に建つ……そびえ立つ屋敷。中庭には噴水がありそこを回るようにして車は大きな扉へと向かって行く。
新しい母親と上手く行かず、引きこもりがちになった中三の僕に痺れを切らしたように父が二つの選択肢を与えた。
寄宿制の男子高に行くか。
柴崎家に行くか。
柴崎家は亡くなった母の実家だった。が、ほとんど交流はなく祖父に会うのも初めてだった。
「瀬奈、おかえり」
車を降りると、車椅子の老人が若い男性と待っていた。
「おじいちゃん……?」
「そうだよ」
握手を求められ、僕はそのシワシワな手を握った。
「ひきこもりだって聞いたから、いかがなものかと思ったが……大きくなったね」
「大きくなった……?」
僕には祖父に会った記憶がなく困惑してしまった。それに、大きくなったと言われても、僕の身長はやっと160センチに届いたところだ。
「はは。会ったのは産まれたばかりのころだよ」
車椅子に乗ってはいるが、初めて会った祖父はとても元気そうだった。
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