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視線を感じ顔を上げると、祖父の車椅子の後ろに立つ眼鏡を掛け蝶ネクタイをしめたスーツ姿の男性と目が合った。
「執事の翠川です」
「執事……?!」
僕は、呆気に取られ開いた口が塞がらない。
今まで生きてきた十五年間で、執事と言う単語を使ったことがないからだ。
「瀬奈の勉強もこの翠川に見てもらう。学校を三年生はずっと休んでいたと聞いてるし……良くうちの学校に受かったもんだ」
祖父が理事長を務める学校は基本的に寄宿制。特別な場合のみ通うことが許されていて、僕はその特例と聞いている。
今思うと。
父の選択肢は答えが同じだったような気がする。が、正直、実家を離れられるなら僕はどっちでも良かった。
「部屋は二階に用意してあるから……自由に使いなさい。
翠川、この屋敷の案内は頼んだよ」
「かしこまりました。打ち合わせはまた後ほどということでよろしいですか?」
「あぁ、後でわしの部屋に来てくれ」
手元のレバーを動かし、小さなモーター音とともに祖父が中に入っていく。
遠く桜が咲くのが見える。
庭に車道を挟んで外国のような広い庭園が広がり、花々の甘い香りもする。
「瀬奈様、ご案内いたします」
「瀬奈……様?」
様付けで呼ばれ、手に持っていたリュックを僕は思わず落としてしまった。
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