01.はじまり

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「み……翠川さん」 「さんは付けて頂かなくて結構です、瀬奈様」 「そんな……僕にも"様"は付けなくていいです」  僕の側に寄り、落としたリュックを持った翠川さんは首を傾げた。 「荷物も自分で持てますから」  荷物は身の回りのものだけでいいと言われていたから、リュックひとつだけ。財布とアルバムから剥がした写真、あと着替えを一組……。 「それは命令ですか?」 「命令なんてとんでもないです」 「では、行きましょう。瀬奈様」  話が通じない。  歩くことを促されるように背中に添えられた手に戸惑いながら、お屋敷の中に入って頭の中が真っ白になった。  真っ赤な絨毯が敷き詰められた広い広間。  そこは玄関ではなく映画館のロビーのような空間だった。装飾品のように緩くカーブした階段が二階へと続いている。 「……瀬奈様、どうかされましたか?」 「ここが家なんですか?祖父は一人で住んでると聞いてたんですけど」  石造りの外観にも驚いたが、中はそれ以上で喉がカラカラだった。
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