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「み……翠川さん」
「さんは付けて頂かなくて結構です、瀬奈様」
「そんな……僕にも"様"は付けなくていいです」
僕の側に寄り、落としたリュックを持った翠川さんは首を傾げた。
「荷物も自分で持てますから」
荷物は身の回りのものだけでいいと言われていたから、リュックひとつだけ。財布とアルバムから剥がした写真、あと着替えを一組……。
「それは命令ですか?」
「命令なんてとんでもないです」
「では、行きましょう。瀬奈様」
話が通じない。
歩くことを促されるように背中に添えられた手に戸惑いながら、お屋敷の中に入って頭の中が真っ白になった。
真っ赤な絨毯が敷き詰められた広い広間。
そこは玄関ではなく映画館のロビーのような空間だった。装飾品のように緩くカーブした階段が二階へと続いている。
「……瀬奈様、どうかされましたか?」
「ここが家なんですか?祖父は一人で住んでると聞いてたんですけど」
石造りの外観にも驚いたが、中はそれ以上で喉がカラカラだった。
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