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フワフワの絨毯は、夢の中を歩いているようだった。
「壮一郎様はお一人で住まわれてますが、私を始め多くの使用人がおりますので……」
いろいろ話しは聞こえているが、まったく頭に入ってこない。階段を登って長い廊下を歩いていると、突き当たりの扉の前で男性が一人待っていた。
「こちらがお部屋です」
翠川さんは男性に軽く会釈をしただけで、二枚扉を開け放った。
「…………!」
絶句するとはこのことだ。
言葉が一つも見当たらない。
天蓋付きの広いベッド。
机は勉強机とは呼べないような広さ。
猫足のソファに壁一面、天井まである書架……そしてとにかく広い。今まで引きこもっていた部屋の何倍だろうか。
「瀬奈様!?」
頭がクラクラしてきて、その場に座り込んでしまった。
「………ここが僕の部屋ですか?」
「ええ。壮一郎様の次に広い部屋を用意しましたが、ご不満のようなら庭に離れを建てても良いと言われてます。しかし、それも工事中は……」
翠川さんの口からつらつらと語られる言葉が理解できない。腕を支えられ、ソファに座ったがその柔らかにも身体が震えてしまった。
跪いた翠川さんが僕の顔を覗き込む。
「瀬奈様、ご気分でも悪いのですか?」
目頭が熱くなって目から涙がポロポロと溢れてくる。
「…………あれ?」
びっくりしすぎて涙が止まらなくなった僕は、慌てて目を擦ろうとしたがその手を止められ、代わりに差し出された白いハンカチで涙を拭われた。
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