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そしてまた、
しまった……と思う。
私は今、この人の部下で、雇われの身だというのに失礼なことを言ってしまったんじゃないか。って、
心に留めておけばいいのに、また余計なことをこの口が……と思った。
「希穂」
「は、はい」
「お前は俺を一番に理解してくれていると思ったんだけどな」
「す、すみません……」
若槻総支配人の言葉の意味がいまいちよく理解出来なかったけれども、つい圧倒的なオーラに押されて謝ってしまった……
「俺がここに来る前にどんな職に就いていたか知ってるよな?」
「ええ……大手都市銀行に勤めていた、と」
「ああ。正直、もうこっちには戻らないつもりでいた。けど、本来グループを継ぐ予定だった俺の兄がそれを放棄して、急にその役目が俺に回ってきたんだよ。それで先ずはグループ企業で実績と経験を積めってことで買収したばかりのホテルを任された」
「では……今回の就任は〝仕方なく”だったのですか……?」
「まぁ確かにそうだったな。ただ、やるからには結果をしっかりと残すつもりだ。俺やグループの為だけじゃなく、任されたホテルで務めている従業員の為にも」
「若槻総支配人……」
「とは言っても、俺はこういう性格だ。しかも、買収したばかりのタイミングでこんな若造が総支配人に就けば良く思わない従業員も多いだろう。誰かさんの助言がなければ相変わらずの態度で敵ばかりを増やしていたかもしれない」
「え……」
「媚びたり馴れ合う気は全くないが、総支配人としてのコミュニケーションは必要だよな」
そ、それって、
この間の同窓会の前に私が言った言葉のこと……?
常に完璧で、
周囲に左右されることなんてなさそうな、
あの〝若槻頼近”なのに。
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