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元気のよい素直な子供は、人生の先輩方のアイドルと化していた。
カウンター席に座ろうと思っていたが、これでは無理そうだ。しかたがないので八潮は少し離れた席に腰を下ろす。
「いらしゃい、八潮さん」
この頃は忙しく、この喫茶店にくるのは久しぶりだ。
自分がここに通い始めた頃は、まだおじいちゃんがオーナーをしていて。暖かな人柄に癒しを求めて通ったものだ。
孫の江藤も癒しの素質を受けついだようで、たまに彼に癒しを求め足を運ぶ。そういえば会社の部下である波多もここへ癒されにくるのだと話していた。
「やぁ、江藤君。あの子は?」
「友人の子なんですよ。仕事が終わるまで預かっているんです」
「ふぅん。可愛いねぇ」
八潮は二度結婚したがどちらとの間にも子供は出来ず、いたら可愛かっただろうなと思った事はあるが、子は天からの授かりものだ。こればかりはしょうがない。
シガレットケースから煙草を取り出し火をつける。紫煙を燻らせながら午後からの会議で使う資料へと目を通していれば、
「ねぇ」
と声を掛けられ、いつの間にか男の子が目の前の席に座っていた。
集中していたせいで気が付かなかった。八潮は慌てて煙草の火を揉み消した。
「ごめんね、気が付かなくて。煙たかったね」
「うんん。これどうぞ」
と、男の子のおやつだろうか、クッキーを差し出される。
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