上司と部下の「恋」模様

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◇…◆…◇  三木本は優秀な部下だ。  彼は大丈夫。その分、他の部下へと目を向けていた。  だが、この頃の自分はどうだ。気がつけば三木本を目で追ってしまう。  仕事に支障が出る程までかと、さすがにそれはまずいと気持ちを切り替えたが、気が緩むと三木本へと意識がいく。  彼に好かれている、何をしても受け入れてくれるだろうという確信があった。だから、自分の欲求を満たすようなまねをした。  八潮は部下思いの親切な上司に見られることが多く、それは自分が良い人に見られたいばかりにそうしているだけだ。  だから、妻たちは八潮の本質を知り、二度も離婚をするような事となったのだろう。  三木本はそんな自分を真っ直ぐに見つめてくる。  非常階段でキスをしたのは、彼の気持ちが素直に嬉しかったから余計に思う。このままではいけない。彼は本気で好いてくれているのだから。  帰ったはずの三木本が目の前にいる。 「どうしたの?」  忘れ物でもしたのかと言えば、いいえと首を振る。 「八潮課長をお誘いしたく戻ってきました」  食事に行きませんかと誘われて、八潮は席を立つと三木本を非常階段へ連れ込んだ。 「課長……」 「僕はね、君に惚れてもらえるような男じゃないんだよ?」  親指で唇を撫でれば、目元を赤く染めてキスを誘うように薄らと開く。 「だから、僕に流されるまま、受け入れては駄目だ」  ね、と、頭を撫でて。 「今日は一人で帰るよ」  と三木本のわきをすり抜けようとした、その時。後ろから抱きしめられて足を止める。 「課長、俺は一緒に気持ち良くなりたいです」  お好きだとおっしゃいましたよね、と、腰に回す腕が微かに震えていた。  勇気を出して自分に甘えている。その願いを叶えてやりたくなる。  だがその手を掴んで首を横に振った。 「君は僕の事を想ってくれている。それなのに興味本位で抱くような真似をして、失礼な事をしてしまった」  だから駄目だよ、と、彼にそして自分に言い聞かせるように言う。 「……そう、ですか」  するりと腕が離れ、いつもの三木本の顔に戻る。 「申し訳ありませんでした。では、お先に失礼します」  頭を下げ、ゆっくりと階段を下りていく。  革靴の音が響き、それが聞こえなくなった頃。八潮も下へ降りるべくエレベーターへと向かった。
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