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グラスにビールをつぎ、何口か飲んだ後にぼそりと口にする。
「また、ふられたよ」
この前、波多と久世に助けてもらった後、八潮とのやり取りを話す。
二人に八潮と抱き合った事もキスしあった事は話していない。
「……そうか」
「でも、何度ふられようが、俺は八潮課長を想う事をやめられないのだろうな」
「だろうな。まったく、こんな優良物件を振るなんて、見る目がないよ課長は」
「そう言ってくれるのはお前だけだ」
ありがとうと、ビールをコップの中身を全部飲み干す。
「俺はあの人の良い部下であり続けたい」
「……三木本」
抱きしめてくれる腕が暖かくて涙が溢れそうになるが、自分らしくないという気持ちが素直に泣かせてくれない。
「我慢するなよ、ばか」
「悪い。でも俺はこんな性格だって知っているだろ」
素直じゃないのはお互い様。そう言って顔を見合わせれば、違いないと波多が頷く。
「もうっ、羨ましすぎます、二人の関係性がぁ」
酔っぱらった久世が、二人の間に割り込んでくる。
「こらっ、久世、鬱陶しい!」
「俺もぉ、三木本さんを元気つけるんですぅ」
ぐりぐりと二人の肩に額を押し付けてくる。
久世なりに慰めてくれているのだろう。それが嬉しくてふっと笑みを浮かべる。
「本当にお前は犬っぽいな」
乱暴に髪を撫でてやれば、むふんと声をあげてずるずると床へと落ちていく。
「落ちたか。そこらの床に転がしておけ」
「解った」
波多が寝室からブランケットを持ってきて久世に掛ける。鬱陶しいと言っている割には面倒見が良い男だ。
「三木本、辛くなったらいくらでも付き合うからさ」
だから元気出せよと肩に手が触れる。
「あぁ、その時は頼むよ波多」
良い友と後輩。二人のお蔭で気持ちがすこし楽になった。
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