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「僕にくれるの?」
「うん。えとうのおじちゃんがやいてくれたの」
ニッコリと天使のような笑顔を浮かべる男の子に、つられるように八潮もニッコリと笑う。
「ちょっと甘めですが、珈琲と合うように作ったので試してみてください」
チョコレートチップ入りのクッキーは確かに甘めだが、ブラック珈琲との相性はいい。
「うん、サクサクで美味しいねぇ。ありがとうね、坊や」
「ボク、こうすけ。よんさいです!」
そう大きな声で自己紹介をし、指を四本たてる。
「おじさんはねぇ、八潮っていうんだ。四十五歳だよ」
と頭を撫でれば、嬉しそうな表情を浮かべる。
「へぇ、八潮君、もうそんなになるのかい」
カウンター席の一人がそう声を掛けてくる。
彼らも昔からの知り合いなので、八潮の年を聞いて自分らも年を取る訳だと笑う。
「あの頃は色々と悩みを聞いてもらいましたよね、珈琲を飲みながら」
「そうだったな」
懐かしいと昔を思いだしながら、あの頃は若かったなとしみじみと思う。
「さて、そろそろ社に戻らないと。浩介君、これはお礼」
たまに食事を摂り忘れる八潮に、部下である三木本が常に持って歩けと一口チョコレートを持たされている。
それを掌いっぱいにのせてやれば、可愛い笑顔を浮かべてありがとうとお礼を言われる。
「ごちそうさま、江藤君。では、失礼します」
江藤と先輩方へ頭を下げて店を出た。
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