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社に戻り、まだ時間があるので喫煙室で煙草を吸おうと向かう。
シガレットケースから煙草を取り出して一本咥え、ジッポで火をつければ、
「ちゃんと飯食いましたか?」
と缶珈琲を手に、三木本が中へと入ってくる。
「珈琲とクッキーを一枚食べたよ」
紫煙をはきだし、彼にかからぬようにパタパタと手で煙を払う。
「煙草、気にしないでください」
「そう?」
彼は煙草が好きではない。滅多な事が無い限り此処には近寄りもしない。
なのにここへ来たのは八潮がちゃんと食事をしたかを確認するためだろう。独り身を心配しての事だ。
「本当はちゃんと食事を摂って欲しいところですけどね、まぁ、何も食わないよりはマシか」
とポケットからチョコレートを取り出して掌に落とす。
「まだあるよ」
さっき浩介にあげたがまだチョコレートは残っている。
「でしょうね。だから今、食べる分です」
八潮の掌のチョコレートを一つとり、包装紙を開いて中身をとりだすと口元へと差し出した。
「貴方を思う部下の気持ちです」
食べてくれますよね、とニィと口角を上げる。
こうでもしなければ食べないだろうと、解っていてする行為。
見た目は怖い癖に可愛い事をする三木本に、八潮はその手を掴んで指ごと咥え込んだ。
「なっ、課長!」
せめてこのくらいの仕返しはしてやりたい。
指が抜ける寸前、舌で指先をぺろりと舐めてやれば、怖い目つきが更につりあがる。
「甘い」
ありがとうね、と、微笑んで見せれば、悔しそうに三木本が八潮を見つめ。
「チョコレート、全部食べてくださいね」
と言い残して喫煙室を後にした。
残りのチョコレートは四つ。
「さて、どうしたものかね……」
飲み物なしではすこしキツイかもしれない。
煙草を揉み消し、自動販売機へと向かった。
【珈琲と煙草・了】
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