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昼休みも特に話しかけられる事は無く、既に食事をしに行ってしまったのだろう。デスクにはもう彼の姿はない。
杉浦はいつもの喫茶店へと向かう事にしたのだが、店の中になぜか松尾の姿がある。
「なっ」
「待ってました。ここ、どうぞ」
と前の席へと誘う。
カウンターの席が空いているが、松尾はそれよりも早くに店主を呼んでしまう。
仕方なく腰を下ろして珈琲を頼んだ。
「八潮課長から聞いてまして。良いお店ですね」
返事はせず、鞄から本を取して頁を開く。
「お昼にパンのサービスをしているんですってね。今日はよもぎあんぱんだそうです」
それに思わず反応し、松尾の方へと顔を向ける。
食いついたと思っているのだろう。表情がそう語っている。そしてさらに話を続けた。
「餡子はこの近くの知り合いの和菓子店のだそうですよ」
いつの間にそんな事を仕入れたのだろうか。しかも杉浦が興味を持った事を確信していそうだ。
「あ、そうだ。会社に戻る前に寄っていきませんか?」
かなりそそられるが、それを知られたくはない。
「黙っていてもらえませんか?」
本を理由に黙らせる。和菓子店の事はスマホで調べればいい。
「はい」
それからは暫く沈黙が続き、店主が珈琲とパンをのせた皿をテーブルへと置く。
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