ワンコな部下と冷たい上司

17/21
前へ
/79ページ
次へ
 ドアベルが鳴り、ウェイトレスが席を案内してくれる。  メニューを見れば、雑誌で見たクリームコロッケとオムライスの写真が大きくのっていた。 「杉浦課長がおすすめしてくれたオムライスにします」 「私も同じものを」  ウェイトレスを呼び、オムライスを二つ頼む。  店の中を見る杉浦は、とても懐かしそうに店の中を暫く眺めていた。  暫く、黙ってその姿を眺めていた。今は杉浦の思い出の邪魔をしてはいけないと思ったから。  だが、それも注文の品が運ばれきて終わりを告げた。  目の前に置かれた皿の上には、とろっとろな卵にデミグラスソースのかかったオムライス。 「うわぁ」  見た目だけで既に美味そうで、つい、子供みたいにはしゃいでしまて、杉浦がくすっと笑い声をあげる。 「私の弟も、これを見た時に同じような表情をしていました」  今日はすごく良い雰囲気だ。このまま楽しく話しながら食事をと思っていたら、杉浦から表情は消えてなくなってしまう。 「今回で金曜日に食事をするのは最後にして貰えませんか?」 「……え?」  それからは黙って食事をし、店を出て直ぐに別れた。  最後にするつもりだったから、話をしてくれたのだろうか。  だが、このまま終わりにしては駄目だ。二度と本心を見せてくれなくなるだろう。  杉浦の後を追いかける。  この腕の中へと抱きしめて、逃げ出さないようにしないといけない。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

502人が本棚に入れています
本棚に追加