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◇…◆…◇
今までプライベートな部分を自ら話した事は無い。
つい、あの店が懐かしくて家族の事を話そうとしていた事に驚いた。
松尾といると調子が狂う。
これ以上は食事会を続けていると、余計な事を話してしまいそうで怖い。
だからもう最後にしようと決めた。
昔はデパートの屋上に遊ぶ場所があり、母親が買い物をしている間、そこで待っていた。
百円を入れると動物が動きハンドルで方向をきめられる。それが楽しくて弟とよく笑っていた。
ゴーカートに乗ると父は下手で、よく壁に当たっていた。
すっかり疲れてベンチに座る父に母がお疲れ様と飲み物を差し出す。
自分と弟はソフトクリームを食べながら、次は何で遊ぼうかと相談していた。
そんな楽しい時間は、彼が中学に上がった時に突如終わった。
休日に部活があるからと一緒に出掛けなかった。
その帰りに事故にあったのだ。
それからは母親方の祖母に引きとられて育った。
働きながら大学まで出してくれた。就職が決まり、これからは自分が孝行する番だと仕事も頑張った。
だが、たくさんの愛情を注いでくれた祖母も、自分の元から去ってしまった。
葬式の日、本当に一人になってしまった杉浦に、八潮はずっと傍に居てくれた。
ただ放っておけなくて優しくしてくれただけ。なのに杉浦はそれを勝手に勘違いし、八潮に特別な想いを抱いてしまったのだ。
それだけに、結婚すると聞いたときは何も考えられなかった。愛しい人は自分の前から去っていく。
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