ワンコな部下と冷たい上司

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 もう、何も期待しない。心を開かなければ、こんなに辛い思いはしなくて済むのだから。  そう考えるようになってからは何も感じる事もなく、仕事と家に帰る日々を過ごしていた。  そこに他の部署から移動してきた松尾が現れてからおかしくなってきた。  彼は杉浦のテリトリー内に入り込んでかき乱していく。 「待って下さい、杉浦課長」  腕を掴まれて細い路地へと連れ込まれる。 「これ以上、俺をかき乱すな」 「課長」 「お前みたいな奴は嫌いなんだ。いい加減に解れよ」 「本当のあなたを見せているのは俺だからですよね?」 ぐっと喉が詰まる。 「調子に乗るな。そんな訳が……」 「貴方の事をもっと知りたいです」  真っ直ぐに見つめる目に囚われて動けなくなる。 「知られたくない、お前にだけは」  もう、あの時のように胸が痛んで苦しむ事にはなりたくない。  痛みにたえるように、胸の所で拳を強く握りしめる。 「杉浦課長、そんな顔をしないで」  唇に何かが触れる。  それがキスだと気が付いたときには、唇を割り舌が入り込んでいた。 「ん、ふ」  欲を含んだキス。このまま、受け入れてしまったら、蕩けさせられ溺れてしまう。 「やめろ!」  抵抗して、彼を突き飛ばす。 「あっ」  よろける松尾を睨みつけ、 「俺に二度と近寄るな」  と彼の元から逃げるように立ち去る。  だめだ。  この感情に気がついてはいけない。いつか彼も自分の傍から離れていってしまうのだから。
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