502人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
前よりも酷い表情になった。
冷たい目すら向ける事は無く、感情が抜け落ちて何も映っていないかのようだ。
杉浦に嫌われてはいないだろう。寧ろ、そういう意味で自分を好きなのではと思っている。
何かに耐えるように辛い表情をする杉浦を見ていたら、愛おしという感情がわきあがり思わずキスをしていた。
恋人として彼の傍に居て支えたい。そう、自分も杉浦が好きだと気が付いた。
だが杉浦は自分の中に踏み込まれるのを恐れている。
それを取り除かない限り、あの人は自分にまた心を開いてはくれないだろう。
「杉浦君と何かあった?」
あの表情が気になったのだろう。
「八潮課長、どうして杉浦課長は他人と関わり合いを持ちたがらないんでしょうか?」
「そうだねぇ、もしかしらなんだけど、失うのが怖いのかな」
「それはどういう事でしょうか」
「あの子は中学の時に両親と弟を失ってね。それからおばあさんに育てられたんだけど、その方も、ね」
あの洋食屋は、杉浦にとって家族の思い出の場所。懐かしいが辛い場所でもあったのではないだろうか。
「僕も悪いのかもしれない。中途半端にやさしくしたから」
「……俺はあの人の傍から離れたりしません」
「うん。前にも言ったけれど、あの子を変えられるのは君しかいないって、そう思っているよ」
「はい。今なら八潮課長がそう言った理由が解るような気がします」
あの人が怖いと思うモノをなくしてやればいい。
「俺、杉浦課長が好きです。それに、あの人にも俺が好きだと認めさせないと」
言うねぇと八潮は口元をほころばせた。
最初のコメントを投稿しよう!