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松尾がまだ移動してくる前、八潮によく差し入れを貰ったのだと話してくれた。
それだけでやる気が違くなると言っていたが、本当だった。
「少しずつでいいんです」
いつもと違う事に、皆は気が付いてくれるから。
和菓子屋に一緒について来て貰った時に、手を握りしめながら言ってくれた。
それから一息入れようかということになり、
「課長、お菓子のお礼です」
とペットボトルのお茶を貰った。
「今度、この和菓子屋さんに行ってみようと思います」
別の部下がそういって笑う。
「俺、甘いもん苦手なんすけど、これ、めちゃうまいっす」
と、松尾と同じくらいの歳の社員がそう口にする。
「それは良かったです」
嬉しいと素直に思った。
途端、周りがポカンとした表情を浮かべ、松尾が指で唇の端を持ち上げて笑顔を作る。
「え?」
自分は今、笑顔を見せていたのか。それに驚くと同時に恥ずかしくて顔が熱くなる。
「やばっ、レアっすね」
と言われ、女子社員がきゃっきゃと声を上げている。
松尾がすぐそばに来て、
「いい笑顔です」
そう囁く。
人との付き合いもそんなに悪いものではない。そう思ってしまうのは隣に立つ男の影響なのだろう。
これでは松尾の思いのツボだなのだが、それに乗せられることも嫌ではない。
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