502人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
約束をしていた洋食屋へと行った。
家族の思い出を話している間、松尾は黙って話を聞いてくれた。
大切な人達の事を思い出すのが辛くて、この洋食屋にもずっと行く事は無かった。
だが、今はここは特別な場所にとなりつつある。愛しい人と、大切な人との思い出がつまっているから。
「今度はクリームコロッケを食べてみようと思います」
母親がいつも頼んでいたメニューだ。
「では、俺はハンバーグを」
「半分こしましょうか。弟とよくしてました」
「いいですね。そうしましょう」
食事を終え、マンションまで送るという松尾に、それならばと自分の部屋へと誘った。
中へと入るなり、こちらからキスをする。心が満たされて暖かくなる。
「課長、どうしたんです」
玄関先でキスをするなんてと、熱烈ですねと頬を撫でられる。
「お前で満たされたい。もっと、深い所まで俺にくれないか?」
口調がかわり、上司と部下という関係から恋人同士の時間となる。
「それって、貴方を抱いても良いと言う事でしょうか」
「あぁ。受け入れたいし愛してほしいんだ、身も心も全て」
今まで好きになった人は杉浦の元から去っていく。それがどれだけ悲しかったことか。こんな思いをするならば一人でいる方がイイと、関わることをやめたのにだ。
愛し合う喜びを感じたいと思ってしまった。全て松尾のせいだ。
「全部、頂きます」
強く抱きしめられ唇を奪われる。
舌が歯列を撫でて、互いに絡み合う。
「ん、ふ」
首に腕を回して、水音を立てながら深く口づければ、足から力が抜けそうになり、それを支えるように松尾の腕が腰に回る。
「続きはベッドで」
そうだった。まだここは玄関先だ。
「はは、俺はどれだけがっついているのだろうな」
「俺もです」
また軽く唇が触れあい、そして目を合わせてふっと笑みを浮かべる。
「行こうか」
「はい」
松尾の手を握りしめ、寝室へと誘った。
最初のコメントを投稿しよう!