杉浦と松尾

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 約束をしていた洋食屋へと行った。  家族の思い出を話している間、松尾は黙って話を聞いてくれた。  大切な人達の事を思い出すのが辛くて、この洋食屋にもずっと行く事は無かった。  だが、今はここは特別な場所にとなりつつある。愛しい人と、大切な人との思い出がつまっているから。 「今度はクリームコロッケを食べてみようと思います」  母親がいつも頼んでいたメニューだ。 「では、俺はハンバーグを」 「半分こしましょうか。弟とよくしてました」 「いいですね。そうしましょう」  食事を終え、マンションまで送るという松尾に、それならばと自分の部屋へと誘った。  中へと入るなり、こちらからキスをする。心が満たされて暖かくなる。 「課長、どうしたんです」  玄関先でキスをするなんてと、熱烈ですねと頬を撫でられる。 「お前で満たされたい。もっと、深い所まで俺にくれないか?」  口調がかわり、上司と部下という関係から恋人同士の時間となる。 「それって、貴方を抱いても良いと言う事でしょうか」 「あぁ。受け入れたいし愛してほしいんだ、身も心も全て」  今まで好きになった人は杉浦の元から去っていく。それがどれだけ悲しかったことか。こんな思いをするならば一人でいる方がイイと、関わることをやめたのにだ。  愛し合う喜びを感じたいと思ってしまった。全て松尾のせいだ。 「全部、頂きます」  強く抱きしめられ唇を奪われる。  舌が歯列を撫でて、互いに絡み合う。 「ん、ふ」  首に腕を回して、水音を立てながら深く口づければ、足から力が抜けそうになり、それを支えるように松尾の腕が腰に回る。 「続きはベッドで」  そうだった。まだここは玄関先だ。 「はは、俺はどれだけがっついているのだろうな」 「俺もです」  また軽く唇が触れあい、そして目を合わせてふっと笑みを浮かべる。 「行こうか」 「はい」  松尾の手を握りしめ、寝室へと誘った。
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