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月と星がキレイな夜。
祭りのお囃子が聞こえる中、鞠子は母親に手を引かれながらで店の中をかき分けていました。
喧騒の中、鞠子はふと目の前の道の先、一層賑やかな神社の境内の先にあるお社に目をやりました。
すると、お社の屋根の上に小さな影が二つ見えました。
「鞠子、離れちゃだめよ。」
そう話しかけられ、一瞬、鞠子は目をお社から話しました。
「分かってるわ。」
そう答え、もう一度、目をお社に向けた時にはその二つの影は消えていました。
屋台のおいしそうな匂いと、真っ暗な世界にぼんやりと浮かぶ提灯。
本来なら、ドキドキする道だが、今日が気が重い。
小さな子供みたいだけれど、置いて行かれないようにと、鞠子は母親の着物の裾をつかんでいました。
”チリンチリンチリン”
小さな小さな音でしたが、鈴のような音色がしたような気がして、音がした方向に目を向けると、「あっ!」、鞠子は何かに足をとられ転んでしまいました。
「痛、いたーい。もう、なに?」
膝を摩りながら起きあがろうと鞠子はふと顔を上げると不思議な気持ちになりました。
周りの人は賑やかそうな雰囲気なのにぼんやりと霞がかって見えます。
そして、自分の周りが異常に静かになっていることに気がつきました。
”チリンチリンチリン、チリンチリンチリン・・・。チリン・・。”
鞠子の後ろで、鈴の音が止まりました。
恐る恐る、後ろを振り向くと、「大丈夫?」
優しい声音で声をかけてきたその人物は、とても穏やかな顔をした青年でした。
拍子抜けしている鞠子に、青年は心配そうに、「立てる?」と、手を差し伸べてきました。
「ありがとうございます。」
差し伸べられた手をとり、ゆっくりと立ち上がる。
「一人で来たのか?」
「いいえ、母と一緒に来たんです。でも、うっかりはぐれてしまって・・。」
「そうか・・。」
青年はそうつぶやくと、少し曇った顔をしたが、鞠子が心配そうにのぞきこんでくるのを感じ笑顔でこちらをみると、
「ここはこれから、今以上に賑やかになるだろう。でも、大丈夫。お母さんが見つかるまで私がそばにいてあげよう。見つかるまでは私のそばから離れてはいけないよ。」
そういって、先程からつないだままだった手を改めて、軽く握ってくれました。
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