5人が本棚に入れています
本棚に追加
(さぁ、じゃあ雨宮は一体どんな顔を……)
席で吐き出した生徒を、カウンセラーの資格をもつサポート専門の教師が保健室に連れていく。他の教師達が手早く机を片付けて、その手慣れた動作に「子ども」達はもっと陰鬱な気分になったようだった。
だから僕は教室中を見渡して、少しだけ気分が良くなった。
1年生の担任は、とても楽しい。
彼らは無垢で、純粋でーーー……あっという間に恐怖に飲み込まれるのだから。僕はまるで、支配者にでもなった気分だった。僕のことをナメていた子ども達が、今はもう誰も僕をナメていない。
恐れてる。人を殺した僕を。こんな僕を。
(ああ、最高だ)
ひたり、と
冷たい気配が迫り来るのを感じた
「……なんで?」
不穏な予感にゆっくりと顔をあげると、地獄絵図のような教室で天使が微笑んでいる。
青ざめても、狼狽えても、気を失うことも、膿むことも褪せることも病むこともなく。
雨宮 アイは僕を見つめている、普段と何ら変わらない顔で僕の授業を受ける。
「あ……、あ」
なんで?
どうして?
「子ども」はそんな顔をしてはいけないんだ、この授業を初めて受けたときは怯えて慌てて泣き出して、恐怖におののきながら僕を見なければいけないんだ。
雨宮みたいに大人びて、美しくて、天使のような少女こそ、少女こそが。
一番に怯えて泣き出して、汚物にまみれて堕ちなくてはいけないんだーーー……僕が見たいのはそんな姿だ。
(僕を、怯えたような顔で見ろよ)
何のために大人になった?
何のために人を殺した?
僕は、僕はーーー……。
無意識に後ずさりした僕の背中が黒板にあたり、ドンと音をたてた。雨宮の瞳が僕をとらえる、餓えた獣に見つかった小動物のような気分がした。
真っ赤な唇がゆっくりと動く、微笑む。
「ひ・と・ご・ろ・し」
泣きじゃくる子ども達、気を失って倒れて怯えて現実を受け止められない可愛い子ども達。
大人の僕をバカにしない、可愛くて愚かな子ども達。僕を尊敬し、怯えた目で見上げる子ども達。
それなのに今は。
(僕が彼女を恐れてる、こんなにも怯えてる。まるで僕か子どもで、彼女が大人みたいじゃないか……!)
最初のコメントを投稿しよう!