第1章_ある教師の告白

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3 『気持ち悪いんだよ、棚崎!』  学生時代、僕はいつもイジメられていた。  存在を無視されることは日常茶飯事だったし、持ち物を隠されたり、暴言を吐かれたり、殴られたりすることだってあった。  クラス中からイジメられているせいで、女子にもイジメられていたし、下級生からもナメられていた。  それが、僕の「日常」だった。 『どうせお前みたいな弱っちいやつは「大人」になるのなんて無理に決まってるんだよ』 『人を殺す前に殺されるだろうな』  自分でもそう思っていた。  僕みたいに誰からもナメられて、イジメられて、存在すら無視されて、それなのに何も言い返せない弱い僕が人を殺すなんて。大人になるなんて。できるわけがない、と。 けれどあの時、ナイフを握った時 「殺していいよ」と誰かが僕にいった時 怯える彼女の目を見た時、 僕は初めて 誰かの上に立ったんだと思った  酷く心地よかった。  人を殺すことは怖かったけれど、こんなに弱い僕が誰かを怖がらせているんだと思ったらとても楽しかった。  そして大人になったら、全てが変わったんだ。 『棚崎、よく頑張ったな。うちの学年で1番だったのに』 『ありがとうございます……』  僕は4月のはじめが誕生日だったから、「大人」になるのは学年で一番早かった。  「大人」になってから学校に行くと、教室の空気が変わっていた。人を殺した。ただそれだけのことで、クラスメート達は僕を恐れ、尊敬していた。 (僕が人を殺したから)  そうか、この人達は「子ども」なんだ。  まだ人を殺したことのない人間にとって、人を殺した人間は怖いんだ。ああそうか、そうなんだ。  「子ども」の中にいたら、僕だってナメられない。  あの怯えたような目で、僕を見てくれる。  僕の存在を無視されない、誰も僕を殴らない、笑わない、ナメられない。  だから僕は、教師になった。  中学の教師でもよかったけれど、それよりも高校の教師がいいと思った。  高校の教師なら、少しずつ大人になる日が近付いてきて、それに怯える子ども達の顔が見れるから。現実感が迫ってくる分、大人の僕を怯えたような顔で見てくれるから。  怯えた顔にぞくぞくする。  あの目を思い出す。それなのに、あいつは。 (なんなんだ、一体……)
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