第1章_ある教師の告白

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雨宮 アイ。 僕のクラスにいる天使。 (あいつはどうして大人(僕)を恐れないんだ? 怯えないんだ? 怖がらないんだ?)  恐れて、怖がって、怯えて、泣きじゃくって、僕を見ろ。僕を尊敬しろ。僕は大人なのに。お前達は子どもなのに。  雨宮のあの目を、僕は何度も思い出した。  思い出せば出すほどにヘドが出そうになる、あいつは僕のことを恐れてなんていなかった。怖がってもいなかった。怯えてもいなかった。尊敬してもいなかった!  きっとこのままでは、僕がようやく手に入れたこの平穏な時間は壊される。あの天使のような死神の手によって。  そうしたらまた僕は戻ってしまう、あの地獄のような毎日にーーー……考えただけでゾッとした。ようやく僕はこの手で平穏を手に入れたのに、大人になったのに、尊敬されたのに。  あいつさえ、あいつさえいなければ。 (雨宮 アイさえいなければ!)  どうすればいい? どうすればあいつは恐れる? 僕を怖がる? 僕に怯える? 僕を尊敬する?  絶対に。絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に。  もうあの日々には戻らない。もう誰からもバカにされたくない。誰も僕の存在をなかったことにはさせない! (どうしよう、どうしよう。どうしよう、雨宮 アイ。雨宮。雨宮を。雨宮に。雨宮……)  あいつをどうにかしなければ。  あいつの目を。あいつを。あいつさえいなければ。あいつが僕をバカにする。  必死で頭を使う僕の目に飛び込んできたのは、筆立てに入れているカッターナイフだった。 (そうだこれを、あの女に突き立てればいいんだ)  殺すなんてバカなことはしない。  けれど殺されるかもしれない、って恐怖を味わわせよう。人が殺される映像を見ても平然としていたけれど、あの女だって所詮は「子ども」。  たまにいるんだ、映像は映像だからと割り切ってしまうタイプ。現実だと思わない、想像力が欠如したタイプが。  きっと雨宮だってそのタイプなのだろう。  映像を現実だと思わなくたって、カッターナイフで突き立てると話は別だ。薄皮1枚くらいなら切っても紙で切った程度の傷跡しか残らないだろうし、いざというときは少しくらい痛みを与えてやろう。  そうすればーーー……。 (誰も、僕のことをバカにしないはずだ)  だから、雨宮が悪いんだ。
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