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見間違いだったのだろうか。
春の陽気が僕に見せた幻覚? もう乗り越えたと自分では思っていたのに、まだ僕は「あの日」を持て余しているのだろうか。
「棚崎先生、大丈夫ですか?」
同僚の教師が僕にそう尋ねた。
僕は窓に映る自分の顔を見て、「あ」と声をあげそうになった。
「死神にでも会ったような顔をしていますよ」
血の気が引いて真っ青な僕の顔は、まるで死人のように見えた。あの日僕が殺した、あの人の顔にそっくりな顔色だったーーー……『死神にでも会ったような顔をしていますよ』。死神。天使のように美しい少女が、僕の頭の中で微笑んだ。
(有り得ない)
有り得ない、有り得ない、有り得ない。
死神なんて。天使なんて。そんなものがいるはずがない。さっきのふたりは間違いなく新入生だ。僕が担当することになる1年生の、まだ「大人」になってもいない無邪気な子ども達だ。人を殺したこともない子どもが、大人である僕を怯えさせることなんてできるわけがない。
僕は新入生が待つクラスを1つずつ覗いていき、さっきのふたりを探した。
身長の高い男子生徒と美しい女子生徒。きっと目立つ存在だ、だからすぐに見つけることができるだろうと思ったのにーーー……彼らはいない。春に吹く突風のように姿を消してしまった。
本当に僕の勘違いだったのか?
それとも彼らは死神ーーー……寒気がした。あの日の血の臭いに、鼻腔が塞がれた気分がする。僕は今にも倒れそうになりながらも、入学式が行われる体育館に向かった。
「棚崎先生、遅いですよ! 新入生代表の子達が待ってますよ」
「新入生代表?」
なんだっけ、それ。
僕の表情を読み取ったらしい1つ上の教師が、苛ついた調子で説明をしてくれた。
「入試で一番成績がよかった子が新入生代表挨拶をして、次点の子が新入生代表で校長先生から入学証明書を受けとることになってる……ってこれ、何度も説明しましたよね? 棚崎先生、リハのときは部活の試合があっていなかったから忘れちゃったんですか?」
「あ、すみません。そうでした」
そうだ、そんなこともあったなぁ。
じゃあここにいるのは、新入生の中でも1、2を争うくらい優秀なーーー……僕はそこで、息が止まった気がした。
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