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「新入生代表の、雨宮 アイです」
そういって微笑んだ少女は、死神というよりは天使に見えた。
けれどそれが見せかけだけの美しさだとすぐにわかる、彼女は何もかもが歪だった。
美しいのに恐ろしくて、恐ろしいのに目が離せない。白い顔に映える真っ赤な唇はまるで血が滴っているかのようだった、ほんのついさっき血を啜ってきたといわれても信じるだろう。
それに比べ、その頬には全く血の気がない。怖いほどに。既に息絶えた死体のように。
彼女は僕を見る。
死体のような姿とは裏腹な、獣のような瞳で。
「そしてこちらが、私と同じ、新入生代表の相島 アキラです」
ぬ、と彼女の隣に落ちていた影が立ち上がった。
ぼさぼさの金色の髪に、緑色の目。身長は190はあるだろうか。スーパーヒーローだといわれても信じるほど筋肉質なのが、制服の上からでもわかった。
「相島です」
地を這うような低い声でそれだけいうと、「ハルク」は頭を下げてまた彼女の影になった。少しでも離れてしまうと災いでも起きるのかというほどにピッタリと身を寄せ、その巨人はじぃっと体育館の床を見つめていた。
「アキラは無口なんです、それに人見知りが激しくて。ご迷惑をお掛けしてしまったらすみません」
天使は微笑んだ。
教師達はその微笑みに魅了され、口々に「構わないよ」と声をかける。入学式に向けて体育館裏に集まっているだけなのに、そこはまるで女王様と謁見するための待合室のようだった。教師達はとりつかれたように彼女に声をかけ、微笑んでもらおうと躍起になっている。
ああ。
茶色の目を細めて笑う彼女に、誰がそんな感情を抱くだろう。
けれど僕は恐ろしかった。本当に恐ろしかった。得体の知れない「何か」に対する恐怖を、確かに目の前の彼女に対して感じた。
彼女は微笑む。
彼女は美しい。
彼女は完璧だ。
「雨宮 アイだっけ? 有望な新入生が入ったね」
「棚崎先生のクラスだっけ?」
彼女は間違いなく「何か」だった。
僕が知り得る「子ども」ではない、子どもの皮を被った「何か」。
悪魔や死神に限りなく近いその天使は、僕の教室で微笑む。僕に微笑みかける。
(どうしてこんなに恐ろしいのだろう)
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