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「コラ――せっかく締めたんだから崩すなよっ……ま、おれも脱がされんならコッチのほうがいいかも――」
どんなに不自然じゃないって言われても、いや、不自然じゃないって言われれば言われるほどに女の格好をすることには抵抗がでる。
自分自身じゃないみたいな、本当の自分を否定されてるような―――。
そんな思いからついつい口に出たんだけど……って。
「ちょっ……今じゃないからな!?」
慌てて修正するおれに律が吹き出した。
そりゃそうか――いくらなんでもこんなとこで本気で脱がす気になってるわけないよな――。
羞恥に顔が熱くなるのがわかる。
おれってマヌケ……。
少し遅れて披露宴の会場にそっと紛れ込んだ。
律と一緒に親族席につく。父親も、身内も少ないおれの家は葛西商店のみんなに一緒のテーブルを囲んでもらっている。
戻った俺に「スーツも似合ってるわね」と幸子さんが笑いかけてくれた。「も」ってトコに引っかかるけど――。
ツルさんは食べやすく切り分けてもらった料理をおいしそうにほお張っている。
和洋折衷なメニューは参列してくれた人がみんな食べられるようにって配慮――。俺の前では傍若無人な美晴だけどこういうとこは意外と細やかだ。
余興もあまりない――出し物なんかより、おいしく食べて笑って帰って欲しい……そんな風に2人で話してたのを思い出す。
その代わりにと友人たちは歓談時間が始まるとお祝いだとばかりに、入れ替わり歌を披露していく。
「ち~あき~」
歌の合間、馴染みの同級生たちがビール瓶を片手に連れ立ってやってきた。
げっ――嫌な予感。
「さっきのアレ、ドレス!」
「そうそう、何で着替えたんだよ」
「似合いすぎてて変な気になったじゃねぇか」
アルコールが入った連中が口々におれをからかっていく。さらにおれのグラスにビールを注ぎ足し飲めという催促。
「うるせ……美晴に脅されたんだよ! 二度とやるか!」
片手でグラスに蓋をし、テンションのあがった連中を睨みつける。ま、睨んだところでこいつらが怯むわけもないんだけど……。
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