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「動けないんだろ? 千章は――」
わざと言ってる……その通りなんだけど、なんかムカつく――。
「もう変なことすんなよ?」
「変なことってなんだ?」
あからさまにとぼける律を軽く小突いてやる。
「千章」
2人で入るにはやや狭いシャワールームで不意に名前を呼ばれた。
振り向いた瞬間――。
「っん――」
律の唇が重なる。それは軽く啄ばむような優しいキス。汗ばんで頬に張り付く髪の毛を律の指がそっと退かしていく。
勢いの強いシャワーを浴びると律が軽く顔を顰めた。
「千章、おまえ……もうちょっと爪切っとけよ」
言われて律の背後に周りこむと――まるで猫にでも引っかかれたような。
「あ、ごめん――うん」
その傷をつけた経過を思い出して思わず赤面する。いや、もともとは無茶をした律だって悪いはずだ。
少し温めのシャワーが汗を流していく。
あぁ、律じゃないけど腹減ったな――。
<完>
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