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「千章、ありがとうね」
「もういいって……」
ありえないほど素直な美晴が気持ち悪い。買い物した袋を自ら進んで手にした美晴とスーパーを並んで出ると冷たい北風が頬に吹きつけた。
時節柄、外はもう薄暗く、駐車場の明かりが地面を照らしている。
思わず首を竦めてから、いつもより首筋が寒くないなと感じた。
女のロングヘアって防寒にも役立つのか――。
「知り合いに見つかるとヤダしさっさと帰ろうぜ――」
やや小声で美晴の耳に囁く。
なんでこんな羽目に……愚痴を言いたい気もするけど、今回は自分だって同意しているんだから止めておこう。お陰で堂々と買い物を済ますことができたんだし。
頷く美晴と足早に駐車場を横切っていく。ちょうど美晴の軽自動車が視界に入ったとき、背後から不意に呼び止める声が聞こえた。
「あの――すみません」
若い男の声に美晴と揃って振り返る。
「うわっ――もしかしてキミたち双子?」
派手な風体の男が2人、馴れ馴れしく近づいて来た。これはかなり嫌な予感がする。
双子の妹ながら美晴は人目を引く美人顔だ。性格はキツイけどそんなもの初対面で気づくようなことはまずないだろうし。
そんな美晴がナンパされるのは珍しくない。まぁ、あしらいにも慣れてるだろうしここは任せておくほうがいいか。おれはそう判断を下すと男たちとは視線を合わせずに美晴のほうを見た。
「なに?」
案の定ぶっきらぼうに美晴が対応する。でも、そこはスーパーの駐車場なんかでナンパをするような奴らで全く気にした風もなく、にこやかにまた一歩近づいて来た。
「よかったら一緒に遊びに行かない?」
「行かない」
バッサリと切り捨てる美晴に心の中で拍手を贈った。おれはどうでもいい相手だろうと何かをはっきり断るのは正直苦手だ。
「そう言わずに――ね、そっちの子は?」
不機嫌な美晴を避けて、組し易いとでも思われたのかもう一人が俺の肩に手を乗せてきた。うわっ……鳥肌――。
どう対処するべきか一瞬考えて固まったおれを見て、美晴がすかさずその手を払ってくれた。女の格好をしてるときはどうも背徳感というか罪悪感のようなものから相手に対して強気に出ることができない。
「触らないでくれる?」
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