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脱力だ――。律ってこういうキャラだったか? それでも意外な一面を垣間見て、それがうれしいとつい思ってしまう。ここまで惚れてもらえてたらそりゃ最高じゃないか。
だからって――。
「仕事中は付けれないぞ」
曲がりなりにも食材を扱う仕事だ。衛生的に指輪なんかとんでもない。
「そのくらい知ってる」
「……かなり恥ずかしいんだけど」
うれしくないわけじゃ決してないけどさすがに恥ずかしさは別問題だ。
でも――。
多分これが律の精一杯なんだと思う。おれは未だに人目が気になるし、堂々と律と並ぶことも躊躇してしまう。律はそんなおれにいつだって合わせてくれてるんだ。
おれが胸を張って律のことを「自分の恋人なんだ」と宣言できるようなタイプなら、きっとこんなものは必要ないんだろうと思う。
これで律が少しでも安心できるなら恥ずかしいくらいどうってことないよな。
「――嫌か?」
少しだけトーンの落ちた律の声にハッと我に返る。
「嫌じゃない。けど指輪とか初めてだから落ちつかない」
「初めてなのか?」
あ、以前の恋人とかのことを言ってるんだ。
「初めてだよ」
こんだけ恥ずかしいと思ってしまうおれがペアリングなんかしてる訳ないじゃないか。催促されて贈ったことならないこともないけど――。
おれの返答に律が心なしかうれしそうにしている。律はいつだって真っ直ぐで飾らない。
「律、ありがとうな――」
「言葉だけか?」
ニヤリと笑う律におれも苦笑を返して――。律の首を抱えて唇を重ねた。
こういうことなんだろ――? 少しだけ唇を離して囁く。
「それじゃ、まだ足りない」
今度は律がおれを引き寄せて唇を合わせる。噛み付くような息苦しいキス――。
――千章、俺はそのままの千章が好きなんだ――
後日、目ざとく見つけた美晴から盛大なからかいを受けたことは言うまでもない……。
<おわり>
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