一つ目

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「お客様、起きてください。終点です」  感情のこもらない平板な女性の声で起こされて、覚醒した。  目を開けると、ガランとして電気の落とされた暗いバスの車内に、俺と女性の二人しか居なかった。  しまった。寝過ぎた。夜中までオンラインゲームなんてするんじゃなかった。公共交通機関で起こされるまで寝てるなんて、恥ずかしい……。 「すいません、すぐ降ります」  照れを隠すように目を擦るが、何かがおかしい、そんな気がした。  そういや俺、こんなバスに乗ったっけか?  暗い中でも外が明るいからか、バスの中が異様に殺風景なのは見て取れる。  普通のバスならば、あちこちに広告だの、注意書きだのが貼り付けられているのに、それらの全てが見当たらない。  俺が寝てる間に取り外した……なんてことは無いだろう。さすがにそんな大掛かりなことをしていたら、いくらなんでも起きる。  元々無かった……なんてのも論外だ。乗った時に一つだけ印象のあった広告が無いのが何よりの証拠だ。  そう、京都の寺社の特別公開のツアーポスター。気になっていたから覚えてる。  一体何が起こってるんだ?俺、どうかしちまったのか? 「お客様、どうかされましたか?」  降りると言いながら微塵にも動かない俺に、女性が言った。  返事をしなければと女性の方を見ると、こちらもまたおかしいじゃないか!?  俺を『お客様』と呼ぶくらいだから乗務員の格好をしているのを想定していたのだが、女性が着ているのは、おとぎ話に出てくるような西洋風のワンピースで、スカートが地面に付く程長い。  それに、何だこの女?  顔には無害そうな笑顔を浮かべているのだが、どうも胡散臭い笑顔なのだ。  感情の入ってない感じで、でも笑ってる感じが気色悪い。  女性やバスの内装だけでもびっくりものだが、こんなのは序の口だった。  窓の外を見て、俺は更なる驚きに見舞われた。
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