天野川の悲劇

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『楽しかったね! また来年も行こうね七夕』 この豪雨の少し前、 そう言って門限の厳しい彼女は 駆けて行った。 綺麗な横顔を僕に残して……。 それっきり彼女は帰ってこなかった。 彼女は今日、村長の命令で 氾濫した天野川の人柱にされる。 なんでも村の言い伝えで、 龍神の怒りを鎮めるという  子年、子の月、子の日、子の刻に 生まれたせいらしい。   『ずっと一緒にいられますように』 そう二人で願ったのに、 僕には彼女を助けに行くことができない。   なぜってそれは 僕も同じ理由で今まさに、 彼女の隣で人柱になる準備をされているからだ。 爆風と雷雨のなか、 おそろいの白装束と 額には三角の卍布を付けられて、  同日同時刻に生まれた僕らは 奇しくも今日、同じ穴で神に召されることになる。   こんな、こんな形で願い叶っても……、 「チッ……クショオオォォオ!!」
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