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90インチの液晶テレビに、ふかふかのソファーベッドやぴかぴかのガラステーブル。完備されたキチンなど、生活に必要なもの全てが揃いすぎた――加えてその全てが一つの部屋の為だけに用意されたもの。
広すぎる部屋の中央のソファーベッドに膝を抱えて座り、庶民なら一度は憧れる大きなテレビでニュースをぼんやりと見つめていた藍原 晃は、不意に隣にいる男――深谷 郁夜をちらっと盗み見る。
すると、なぜかこちらを見つめていた郁夜と目が合ってしまい、不覚にも胸がドキッとなる。思わず目を逸らしてしまった。郁夜がクスリと笑う声に、恥ずかしさに顔が赤くなるのを感じる。
「あ、のさ……!アンタなんで俺を軟禁しようって思ったんだ?」
羞恥心を誤魔化したさに、ずっと気になっていた疑問が咄嗟に口をついて出る。
家の外に出ないこと以外には自由を許されている――軟禁状態の今の生活は晃も合意の上で行われているものだ。非現実ではあるが、軟禁生活が晃の今の仕事なのである。
それも、有名な敏腕弁護士による労働保証付きの。
事の発端は、三年務めたコンビニ店が不況の波に呑まれてしまい、無職になったことだ。職を探して街を彷徨っていたところを郁夜に捉まえられた。
郁夜の開口一番の言葉は印象深くはっきりと記憶に残っている。
『十五日間、俺に軟禁されない?』
などといった、頭のおかしい不審者かつ犯罪者臭に溢れていた。
晃も最初は頭のイカレタ男だと相手にせず、即通報しようとした類だが――色々とあって郁夜と過ごしている。
食事は必ず一緒にし、風呂も晃は郁夜に洗われていた。恥ずかしい上に自分でやれるからと拒否をしても、郁夜が「お願い」と言って押し切るのだ。
一日の大半は晃は郁夜といて、今のようにテレビを観たりと特別なことはなくのんびり過ごしている。
なにかと晃を甘やかしたがる郁夜に、今では晃も諦め気味で好きにやらせていることが多いい。
人間、生きていれば色々なことがあるとは正にこのことだ。
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