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郁夜は細長く真っ白な綺麗な手で晃の柔らかな髪に触れてくる。上から下へと繰り返す動きは繊細で心地が良い。無自覚に動きを追ってしまう晃だが、途中でハッとなり途端に気分が落ち着かなくなる。
おかしい。どうしてこうも同性と一緒にいて頭を撫でられるだけで胸がこんなにも高鳴るのか。おかしな病に侵されたかのように不明慮で、少し怖かった。
郁夜は知らずか知ってか、まるで子守歌を囁きかけるようなのんびりした声で、聞き慣れた言葉を繰り返す。
「可愛い晃に一目惚れしたから」
嘘だ。二十三にも関わらず理不尽に高校生とよく間違われる童顔は、またも不名誉にも身内や友人に可愛いと定評だが、晃が際立って特別なわけじゃない。
郁夜はテレビで見る男たちが霞んでしまうぐらい綺麗に整った容姿をしていて、探そうと思えば晃よりも可愛い人間などいくらでも見つけきるだろう。
目が肥えた芸能人でさえ、郁夜の甘言にはいとも容易く傾倒してしまうのではないだろうか。
「信じてないねその顔」
胡乱な目を向けた俺に、郁夜は面白そうに笑う。信じられていないことを郁夜が悲しんだりもせず、それどころか気を悪くしたりもしないから尚のこと晃は信じられないのだ。
郁夜も承知の上でやっているのだったら質が悪い。
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