第一章 とある夏の日の一幕

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~No said~ 「全く、相変わらずカルミアは…無理するんだから。もっと素直になればいいのに。フォルス兄さんもそう思うだろう?」 歩き出してすぐ階段近くで止まり、頑丈な柵にもたれかかる。 不意に向けた視線の先には何も無い。 「はあ、見破んの早ぇーよ…サジェス。で、何か用でもあんのかよ。いきなり話しかけて来やがって。」 何も無いと思われた空間に現れたのは、サジェスより頭1つ大きい少年…いや青年とも呼べそうな男だった。 そう彼が長男フォルス・エスポワール。 短く揃えられたサラサラの茶髪、織部(おりべ)の瞳、強気で屈強な戦士を思わせる顔立ち。 焼けた肌と鍛え上げられた肉体は並みの者では無いのを分からせる。 「しらばっくれないでよ。どうせ大方、可愛い可愛いカルミアが心配で、玄関までこっそり見送りに来たんだろう?」 見透かすようなサジェスの視線にフォルスは目を逸らした。 「悪いか?だってよ、あんな可愛い弟他にいないだろうが。それをほっとけってか?有り得ねぇよ。」 照れか、怒りの所為なのか耳まで真っ赤にし、ブツブツと呟いた。 「図星みたいだね。いつまで経っても…そのブラコンは相変わらずだ。」 そう言いながら、やれやれと両手を上げ、首を左右に振った。 「で、本題は?」 ほんのりと赤みを残しながらも、すっかり切り替わった表情と雰囲気に、サジェスも気持ちを切り替えた。 「カルミアの事。あの素直じゃない所もそうだけど、問題は…」 躊躇うように目を伏せ、言い淀んだ。 その様子に何かを察したのか、言葉を繋げた。 「魔流か。」 サラリと言った答えに、ピクリと止まり、一呼吸おいて言葉を発した。 「ご名答。」 苦笑いを浮かべ、此方に顔を向けた。
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