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田山樹は大学時代、祝樹荘というボロアパートに住んでいたことがある。
ボロいだけあって家賃は格安。親からの少ない仕送りでやりくりする樹には、うってつけだった。
当然のように貧乏節約生活な樹の部屋は、掃除が行き届いているものの、特にめぼしい物は何もなく、がらんとした寂しい部屋だった。
そのアパートには大草みつるという、当時の樹から見ればもう十分なおっさんが住んでいて、よくアパートの住民たちで彼の部屋に集まって酒を飲んだりしていた。
とは言っても部屋の主である大草を除けば、樹と、秋葉伊吹と、木場大志の四人だけであるが。
大草さんはなぜ社会人のくせに、こんなボロアパートに住んでるのかと、木場が尋ねたことがある。
「それはここが好きだからだな。ぼろくても、俺にとっては愛着のある大切な場所なんだよ」
そう言って大草は秋葉の方をちらりと見た。顔が赤いのは酒のせいだけではなさそうだ。
ようするに本当はそういうことなんだが、この人もう何年も告白していないらしい。
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