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慌ててコップを立てるが覆水盆に返らず、飲み物はコップに戻らず。
半泣きの俺に、追い打ちを掛けるかのような後続車からのクラクション。
エンジンを掛けて、今度はゆっくりと発進してとりあえずはこの場を離れる。
その間にも、床にぶちまけられたドリンクが放つ、甘ったるしい匂いで車内は充満されていった。
少し離れた路側帯に車を止めて、カップに残っていたドリンクを捨てた。
しかし、こぼれてしまっていた分については、なんとかしようとしたが買ったばかりの車にはティッシュすら積んでは居ない。
コンビニに行くか、洗車場へ行くか!
そうしている間にも、愛車はシェイクとコーラに浸食されていく。
今は一刻を争う、先に出てきた所に入ろうと車を前進させることにした。
こぼされたシェイクとコーラに不機嫌になったのか? どことなく車の調子もおかしい。
ゴホゴホと老人がむせるようなエンジンの音がしてガクガクと前後に揺れるように減速していく。
ついに車速は0になり、止まってしまった。
キーを捻ってもセルモーターが虚しく引っ掻くような音を立てるだけでエンジンは掛からない。
なんだ、なんなんだ!
そんなに俺に乗られる のは嫌なのか?
そんな精神的な話ではなく、リアルで物理的な話しだった。
ガソリン切れである。
そう、僕がうわの空で聞いていた説明の中には、ガソリンは少ししか入っていないからまずスタンドへ行けと言う話もあったのだ。
甘ったるしい匂いの充満する車内で、両手と頭ををハンドルに付けて精神的に打ちのめされた僕の口からは自然と言葉が漏れた。
「嘘…でしょ…」
コンコンコン…コンコンコン
左に寄せて止めていた車のサイドガラスをノックする人がいる。
「どうかしましたかー?」
髪の長いちょっと派手目のお姉さんが心配そうにこっちを見ていた。
あわててドアを開けて外に出る。
「あっ、ガス欠しちゃって」
外に出たのはシェイクまみれの車内を見られたくないと言う、見栄がまだ働いていたからだろう。
「お兄さんは運がいいですね」
僕は耳を疑った、こんな僕の何処に運が良い要素なんてあるんだろうかと。
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