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お姉さんは自分の車に戻ると、軽ワンポックスの後ろハッチを開けて赤い携行缶を持ってきた。
「私、丁度ガソリンを持ってて。レギュラーですけどいいですよね?」
地獄に仏、まさに天使のようなお姉さんにガソリンを分けて貰うことが出来た。
「500mくらいまっすぐ走るとガソリンスタンドがありますから、そこで満タンにしてくださいね」
「はいっ、ありがとうございますっ!」
天使の忠告は聞いておくべきだ。
ガソリンスタンドに入ってガソリンを入れていると、お姉さんの軽ワンボックスもスタンドに入ってきた。
よくよく見れば、お姉さんの服とここの店員の服のデザインは同じだ。
なるほどここの店員さんだったか。
見ればカークリーニングとやらもやっているらしい、折角なのでこの店でお願いする事にしよう。
そうして僕は、家から最寄りのスタンドへの何倍も離れているこのスタンドへ、ガソリンを入れに来るようになった。
それはもう天使に会いたい下心からなのだけど、この車が見えただけで小さく手を降ってくれる彼女に会うため、他所のスタンドでは極力給油しないようにしていた。
そんな思い出の赤い車も長いお役目を終えて廃車となる日が来た。 お姉さんだと思っていた彼女が実は年下だった事や、その彼女が僕の妻になったことや、二人目の子供が生まれてこの車では手狭になった事や。
感慨深い思い出の車との別れは辛いが、新たな家族を迎えるため仕方のない事なのだ。
もう世の中には、ハイブリッド車以外は無くなってマニュアルミッションも絶滅した。
寂しいことだが時代の流れには逆らえない。
僕は妻に問う。
「次の車だけど、何色にしたい?」
「もちろん、赤で…」
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