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10.夜の後悔
「沙良ちゃん、そんなに遅くまで何してたの?」
「え?」
「寝不足と過労って聞いたけど?」
もしかして浮気? それとも怪しいバイトとか?
車を出す前に聞いてみる。まだ少し眠そうな彼女は気だるげに少し笑って、ゆるやかにあくびをしたあとでこう答えた。
「お兄さんの頭にはどうして男女関係のことしか浮かばないんです?」
目を擦る彼女は年不相応にあどけないのに、口から出てくる言葉は相変わらず刺々しい。
「そんなことしないよ、お兄さんじゃあるまいし。」
起きて早々随分なご挨拶だね、人の気も知らないで。俺がどんなに心配していたか、まだ分かってないのかな。俺もちょっと頭にきた。
「あのさあ、沙良ちゃん。さすがにそれはないんじゃない? まだ疑ってるの?ここまでしてるのに?」
「別に疑ってるんじゃないけど、不安になるっていうか。だって信じられないんだもん、お兄さんみたいな人がどうして私にここまでしてくれるのか未だに分からない。」
これ以上何を望んでるんだ、キミは。
口を開くより先に彼女に言われた。その言葉は衝撃だった。
「だって、私より綺麗でスタイルもよくてかっこいい女の人なんていっぱいいるし、もしそういう人に告白されてお兄さんがそっちにいっちゃったりしたらどうしていいか分からないもん。そんなの嫌だって思っちゃうんだもん……でも、それは私にはどうしようもないじゃない……。」
何なんだよ、この子。何なんだよ。
こんなのことを言われたのは初めてだ、何て返していいのか分からなくてハンドルに沈む。怒ればいいのか、喜べばいいのか、それとも泣いていいのか混乱してる。そんなこと思ってくれてるなんて知らなかった。そんな風に感じてるなんて思いもしなかった。
やっぱりキミはずるいよ、こんな状況でやっと本音を言ってくれるなんて。でも、それが一番聞きたかったんだ。ごめんね。
手を伸ばして彼女に触れる。びくりと震えた腕を優しく掴んで顔を上げさせた。
「沙良ちゃん、俺のことすき?」
「ん……うん、すき。だいすき……。」
「ありがと。……俺も、沙良ちゃんが好きだよ。」
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