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まるで無邪気な逃避行
「退屈そうだね。」
見上げてきた光のない目に内心で苦笑する。ここに来てから約二時間、最初は一緒に騒いでいた彼女がそっとその輪を離れても誰も何も言わなかった。別にそれが不服だったとか、自分だけがそれに気づいていたとは思わない。それでも一度気になってしまうと視界の中には入ってしまうようで、まあ、俺自身もちょっと飽きてきていたし。面白半分に声をかけた。それ以上でもそれ以下でもなかった、少なくともこのときは。
「どこか行こうか? どこに行きたい?」
「だめでしょ、迷惑かけちゃう。」
「大丈夫じゃない? キミが抜けたことにも気づかない人たちだよ、気にしなくていいと思うけど。」
迷惑をかけるって自覚はあるんだ・とか。じゃあどうしてこんなところに来たのさ・とか。糾弾の材料はいくつも出てきたけどすんでのところで飲み込んだ。相変わらず、向こうの酔っ払いたちはこっちの方なんか見向きもしない。
「何かあったら連絡くるって。ねえ、どっか行こ?」
もう一押し。渋っていた彼女は少しだけその仏頂面を和らげた。
「どっか行きたかったのは私じゃなくてお兄さんの方じゃなくて?」
一筋縄ではいかないってこと? 手ごわいね。でも、こっちの方が俺としても楽しいよ。がぜん興味が沸いてきた。
「いいよ、どこに行く?」
「キミの行きたいところでいいよ、どこがいい?」
「私の行きたいところは、多分お兄さんにはつまんないと思うよ?」
「いいから言って、どこ?」
俺もだんだん面倒になってきてぞんざいになる。思わせぶりな態度は嫌いだよ、もっと素直でいてくれないと面白くない。彼女はそういうところばかりめざといようで、ほんの少し目を逸らして考えたあと、半ば諦めたような声と顔で短く答えた。
「博物館。」
まさかそんな答えが返ってくるなんて。俺には考えもしなかったけど。
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