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 夜。墨を零したような空に、白銀の星たちがきらきらとまばゆく光る。その中央では黄金の満月が淡く輝き、地上を見下ろしている。  ここは蒼い星、地球。太陽系の惑星にして、太陽系唯一の恒星である太陽から三番目に近い、生き物の暮らす星。  街から離れたひと気のない草地に、街を背にして一人の男が立っている。 〝天星(てんせい)〟は遠くて見えねぇな……、と彼は思った。天星とは、彼の故郷の星だった。地球に酷似した、けれど地球ほど蒼くはない星である。  さわさわと草が鳴り、静寂を侵した。ひゅうっと一際肌寒い風が、半袖から剥き出しの腕を撫でていく。彼は肩を震わせ、身体の前で腕を抱く。  荷物の中からパーカーを引っ張り出して羽織り、ファスナーを首まで上げた。ふと思い出して、パーカーのポケットに片手を突っ込む。中から黒いリストバンドが出てくる。それをはめるため、左の袖を捲る。  手首で蛍光グリーンのデジタル数字が鮮烈な光を放っていた。  ――100  一〇〇文字。それが彼に与えられた〝地球での発言権〟だった。  光る数字をリストバンドで覆い、袖を元に戻す。胸いっぱいに夜の清澄な空気を吸い込み、声帯を震わせぬよう、ゆっくりと吐き出した。  遠く背後の街を振り返る。極彩色のネオンが、星明りよりも眩しく目に刺さる。声の代わりに心の中で彼は叫んだ。祈るように、願うように、自分を奮い立たせるように。  逢いに行くからな、拓哉(たくや)!  地球には〝とてつもなく寡黙〟な人間たちがいる。彼らの正体が地球人ではないことを、当の地球人たちは知らない。
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