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最近、奇妙な人物につけられている。これが世に言うストーカーだろうか。
都内のとある私立大学。その大教室で楽単教授(楽に単位をくれる教授)の講義を受けながら、柚木拓哉(ゆずきたくや)の意識は自分のすぐ真後ろの席に注意深く向けられていた。
いつもと同じ気配だった。長机に備え付けの椅子が軋み、一度だけ尻の位置を直す音。バッグが置かれ、教科書とノートがぱさ、ぱさ、と机上に重なり、続いて布製の筆入れが、かちゃんと中でペンを鳴らす。そうして最後に教科書のページをめくる音が聞こえると、あとは気味が悪いほどに静か。
シャー芯を繰ったりメモをとる音は聞こえない。教科書は最初に開いたきり。黒板を見るために身体をよじる気配も無い。かといって、スマホゲームに興じるわけでもなし。
真後ろの人物はじっと凝視し続けているのだ、と拓哉は確信していた。……何を? 言うまでも無い。
正面に座る人物を……。
この講義――臨床心理学はなかなか面白い。単位が取りやすいからと履修登録だけして欠席を繰り返す学生の多い中、拓哉は毎回真面目に出席している。ひとえに興味があるからだ。
だが講義の九十分間は苦悩の時間であった。抜き身のナイフのようにきらりと鋭利な視線を全背部に受け、うなじの辺りにちりちりとむず痒さを感じながら、何でもない風を装ってノートをとる。
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