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 S2は非常に優秀なストーカーだ。いつも拓哉が着席した三十秒後に狙い澄ましたかのように背後から接近し、必ず真後ろの席を取る。たとえそこに先客がいたとしても、先客は何故か立ち去ってしまうのだ。会話も無しに何故そんなことが可能なのかはわからない。だが、事実である。そして講義終了と同時に煙のようにいなくなる。だから拓哉はほとんどS2の姿を目視できない。  一度だけ、大教室の最後尾に着席したことがあった。そうしたらS2がどうするのか気になったのだ。  結果は、最悪。汗ばんだ背筋をさらにぞっとさせるものだった。  やはり視線を感じたのだ。中庭に面した窓ガラスの向こうから。じーっと。  その教室は三階だったってのに!  もはや恐怖以外の何物でもなかった。拓哉は徐々に、鬱々としていった。  今日も今日とて、視線に耐えながらの水曜二限、臨床心理学なのである。スマホ画面で確認する残り時間は二十五分。背中が痛かった。  そして拓哉はとうとう決意した。今日こそS2に対峙してやろう、と。真正面からその素顔を拝んでやろうじゃないか!  決戦の時は授業終了三分前。振り返ると同時にS2を引っ掴み、横の扉から連れ出す作戦だ。大丈夫。長机の一番端の席なので、扉までの距離は二メートルも無い。教授が板書している隙に行動を起こせばバレやしない。  心臓が高鳴った。気が焦って無意味に手の中でシャーペンを弄ぶ。ペン回しに失敗し、からん、とペンが床に落ちた。慌てて拾い上げる。その時、S2の足が見えた。覚悟しろよ、お前。  スマホ画面を何度も点灯させて時間を確かめた。あと十分……五分……四分……。
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