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仕事の依頼
ある夜の事、紫焔は酒と食事を済ませ家路に着くところだった。
夜の街には色々な人間が繰り出してくる。一般世界からの現実逃避をしたい者達がその大半であろう。色んな人間がいるから世界が成り立っているのも確かだ。そんな賑やかな街から少し離れた場所を歩いていると前から女性が一人走ってくるのが見えた。
この時、紫焔は、本能的には自分が何か面倒事に巻き込まれるのではないかと悟った。基本的に紫焔は仕事以外の事で面倒事を呼び込む事をしないようにしていた。無駄な事に巻き込まれたくないという考えの持ち主なのである。だが、厄介事という物は自分の考えと反して、向こうからやって来るものなのである。その事も重々承知しているが、それでも、極力避けて通りたいと考えるのが人間という生き物である。
紫焔は少しうつむき加減に下を見て、これを回避しようと試みたのだが、やはりそう上手くはいかなかった。女性は紫焔は見るやいなや紫焔の後ろに回り込んだのである。
「おい、お嬢さん。厄介事ならどこか他の所へ持って行ってくれないかな?」
かなり本気で嫌がってみせたが、この女性には通じなかった。
「こんな大層な武器を持っててその言い草はないんじゃない? てか、初対面のかよわい女性が困ってるのに、助けてもくれないの?」
かなりの目力と言葉に言い返され、紫焔は空を見上げて盛大に溜息を吐いてみせた。そして何かを言い返そうといた時、紫焔の考えていた面倒事がやって来たのである。
面倒事は五人の男達だった。身形からしてどこぞの中級貴族といった感じが見て取れる。腰にしている剣もそこそこ良い物だというのも分かるが、まず間違いなく、抜いたことはないだろうというのも紫焔は分かった。
「おい、そこの貴様。その女をこっちに寄越してもらおうか!?」
指差しながら、言ってきた。
紫焔は自分の後ろに隠れている女性を一度見てから貴族達を見た。
「寄越すのはいいけど、この人何したの? 財布でもスられた? それとも、妙な色仕掛けにでも引っかかった?」
首をかしげながら尋ねると、別の男が声を荒げた。
「貴様には関係ない話しだ!! 渡すのか渡さないのか、はっきりしろ!!」
どっちなのか気になると思いながら、紫焔は女性の襟首を掴んで自分の前に差し出した。
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