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その中で私は、一人だけで歩いている女の子を探し回る。いかんせん人が多すぎて断言はできないけれど、少なくとも繁華街の片方を端から端まで歩く間に、それらしい影を見つけることはできなかった。
そんなことをしていると私は少し嫌な汗をかいてしまう。不意に、私の頭の中に子供の頃の光景が蘇ってきたからだ。
こんな繁華街とは少し性格が違ったけれど、確かそう、夏祭りの縁日だったと思う。私はその時小学校低学年で、お父さん、お母さん、そしてお兄ちゃんの家族みんなで見た花火にとても興奮していた。だからという理由になるかは分からないけれど、私は知らない間にお母さんと繋いでいた手を離して一人迷子になってしまったのだ。
辺りは知らない人だらけ、陽もとっくに落ちた中をたった一人歩いていた時の心細さを思うと、今でも心から怖かったと思えてしまうのは引きずりすぎだろうか。それでもやっぱり覚えてしまっているのだから仕方がない。あの時の私もこんな風に見知らぬ人達の真ん中で、首をあちらこちらに振り回していたっけ。
そんなセンチメンタルともいえるかもしれない過去の記憶を掘り返しながら、道路を挟んだ反対側の歩道に足を運び、復路をいこうとしたその時、私のスマートフォンが着信音を奏でた。
「もしもし」
「あ、もしもーし。お久しぶりですセンパイ」
抜けているようなおちゃらけ声で、背の低い色白の彼女は言った。彼女が発した雰囲気は、少し感傷に浸からされていた私の頭を、悪戯な笑顔でぷすりと刺すような声になる。
「レイカ? ごめん今手が離せなさそうで……今どこにいるの? これからバスに乗る感じ?」
首を回してレイカよりもずっと小さいであろう女の子を見つけようとしながら、私は電話の向こうのレイカに確認をとる。
「いえ、今バスから降りたところです。センパイこそ今お店にいない感じですよね? どうかしたんですか」
すれ違う人の邪魔にならないように、私はへたくそなサイドステップで回避する。その先にまた人が来て、避けて、の繰り返しだ。この分だと復路が終わる頃には足がかなり疲労を蓄えているだろうな、そう思うと暗くなる。
「なんで分かるの? それと、もうこっちにいるならレイカにもちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど」
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